緑肥として注目を集めるヘアリーベッチ。その素晴らしい効果に期待して「自分の畑にも導入してみたい」と考えている方も多いのではないでしょうか。しかし、その一方で「本当に良いことばかりなのだろうか?」という疑問も浮かびます。
実は、ヘアリーベッチの利用には知っておくべき欠点やデメリットが存在します。例えば、その旺盛な繁殖力が原因で起こる雑草化のリスク、アブラムシの発生、さらには家畜などに対する毒性の問題も報告されています。また、効果を最大限に引き出すためには、適切な種まき方法や時期、そして後作に影響を与えないすき込み時期の見極めが不可欠です。水稲栽培での活用法や、そもそもいつ枯れるのかといった実践的な知識も求められます。
この記事では、ヘアリーベッチの肥料としての効果から、皆さんが本当に知りたい欠点の詳細、そしてそれを克服するための具体的な対策まで、専門的な視点から網羅的に解説します。
この記事のポイント
- ヘアリーベッチの緑肥としての具体的な効果
- 知っておくべきデメリットや欠点の詳細
- 欠点を回避するための正しい栽培方法と管理のコツ
- 雑草化させずに効果を最大化するポイント
ヘアリーベッチの欠点を知る前に知りたい効果
ポイント
- 期待される肥料としての効果
- 緑肥としての全体的な効果
- 知っておくべきデメリットとは
- 家畜や人に対する毒性のリスク
- アブラムシを呼び寄せる可能性
- 連作障害は起こるのか?
期待される肥料としての効果
ヘアリーベッチが緑肥として高く評価される最大の理由は、その優れた窒素固定能力にあります。マメ科植物であるヘアリーベッチは、根に「根粒菌(こんりゅうきん)」という微生物を共生させています。この根粒菌が、空気中の約8割を占める窒素を、植物が吸収できる形のアンモニアに変換してくれるのです。
この働きを「窒素固定」と呼びます。化学肥料を使わなくても、ヘアリーベッチを栽培するだけで土壌が自然に肥沃になるため、環境負荷の低減とコスト削減に繋がります。情報によれば、その窒素固定量は10アールあたり10kgから、多いときには20kg以上にも達するとされ、これは化学肥料に匹敵するほどの量です。

化学肥料の削減に貢献
ヘアリーベッチをすき込むことで、後作で必要となる窒素肥料を大幅に減らすことが可能です。有機栽培や特別栽培を目指す農家にとって、非常に心強い味方と言えるでしょう。
さらに、ヘアリーベッチはカリウムなどのミネラルも豊富に含んでおり、これらが分解されることで土壌に供給されます。つまり、窒素・リン酸・カリという「肥料の三要素」をバランス良く補給する助けとなるのです。
緑肥としての全体的な効果
ヘアリーベッチの魅力は、肥料としての効果だけにとどまりません。緑肥として、多岐にわたる土壌改善効果を発揮します。
土壌の物理性改善
ヘアリーベッチは、地中深くまで直根性の根を伸ばします。この根が土の硬い層(硬盤)を突き破ることで、土がふかふかになり、水はけと通気性が大幅に改善されます。これにより、後作の作物の根が伸びやすい環境が整い、根腐れの防止にも繋がります。
雑草抑制効果
ヘアリーベッチには、他の植物の生育を抑制する「アレロパシー」という作用があります。これは、植物自身が放出する化学物質によって、周辺の雑草の発芽や成長を妨げる効果のことです。さらに、春になると旺盛にツルを伸ばして地面を覆い尽くすため、物理的に光を遮り、雑草が生える隙間を与えません。
リビングマルチとしての活用
この強力な被覆力を活かし、作物の株間に生きたまま這わせておく「リビングマルチ」としても利用されます。除草の手間を省き、土の乾燥を防ぐ一石二鳥の効果が期待できます。
有機物の供給と生物多様性の向上
刈り取ってすき込まれたヘアリーベッチは、土の中の微生物の貴重なエサとなります。微生物の活動が活発になることで、土の団粒構造が発達し、養分を蓄えやすく水持ちの良い、理想的な土壌へと変化していきます。また、開花期には多くのミツバチや益虫が集まるため、畑全体の生物多様性を高める効果も報告されています。
知っておくべきデメリットとは
ここまでヘアリーベッチの素晴らしい効果を紹介してきましたが、利用する上で無視できないデメリットも存在します。良い面と悪い面の両方を理解することが、ヘアリーベッチを上手に活用する第一歩です。
主なデメリットは、以下の点が挙げられます。
- 強すぎる繁殖力による雑草化のリスク
- 家畜などに対する毒性の問題
- アブラムシなどの害虫の温床になる可能性
- マメ科植物ゆえの連作障害
これらのデメリットは、ヘアリーベッチが持つ強力な生命力や特性が、管理の範囲を超えたときに問題として現れるものです。例えば、雑草を抑制するアレロパシー効果や旺盛な繁殖力は、畑の中では大きなメリットですが、一度畑の外に広がると、在来の生態系を脅かす厄介な存在になりかねません。次の見出しから、これらのデメリットについて一つずつ詳しく見ていきましょう。
家畜や人に対する毒性のリスク
ヘアリーベッチを利用する上で、最も注意すべき点の一つが毒性です。特に家畜を飼育している場合や、小さなお子様がいるご家庭では、正しい知識を持つことが重要になります。
複数の報告によると、ヘアリーベッチの種子には「カナバニン」や「青酸配糖体」といった有毒成分が含まれているとされています。これらを牛や馬などの家畜が大量に摂取した場合、神経症状などを引き起こし、最悪の場合、死に至るケースも報告されています。
また、生草を食べた牛に皮膚炎や結膜炎といった中毒症状が見られたという報告もあります。ただし、これらの症状の発生メカニズムは完全には解明されておらず、別の要因が関わっている可能性も指摘されています。(参照:農林水産省、各種研究報告)

人の場合、直接的に種子を食べることはまずありませんが、緑肥として利用した畑で育った野菜に毒性が移ることはありません。しかし、管理には十分注意し、種子が家畜の飼料や子供の遊び場に混入しないよう配慮することが求められます。
アブラムシを呼び寄せる可能性
ヘアリーベッチは、開花期にミツバチやテントウムシといった益虫を呼び寄せるメリットがあります。しかし、その一方でアブラムシの温床になりやすいという欠点も持ち合わせています。
ヘアリーベッチに付くアブラムシは、やがて近くで栽培している野菜に移り、被害を拡大させる可能性があります。特に、アブラムシが媒介するウイルス病は、一度感染すると治療法がなく、作物に深刻なダメージを与えるため注意が必要です。
天敵の働きに期待する
もちろん、アブラムシが増えれば、それを捕食するテントウムシやヒラタアブなどの天敵も集まってきます。多くの場合、この自然のサイクルによってアブラムシの数はコントロールされます。これを「バンカープランツ(天敵温存植物)」としての役割と呼びます。
しかし、天候不順などで天敵の活動が鈍い場合や、一時的にアブラムシが異常発生した場合には、益虫の働きだけでは抑えきれないことがあります。
対策
ヘアリーベッチを栽培する際は、定期的に観察を行い、アブラムシの発生状況を確認することが大切です。もし、アブラムシが大量発生して作物への被害が懸念される場合は、早めにその部分を刈り取るなどの対策が必要になるでしょう。
連作障害は起こるのか?
「同じ場所で同じ科の植物を続けて栽培すると生育が悪くなる」現象を連作障害と呼びます。ヘアリーベッチはマメ科の植物であるため、この連作障害のリスクはゼロではありません。
連作障害の主な原因は、土壌中の特定の病原菌が増加することや、特定の栄養素が過剰または欠乏することで土壌のバランスが崩れることにあります。
ヘアリーベッチ自体を毎年同じ場所で栽培し続けると、マメ科植物を侵す病原菌が土壌に定着し、生育不良を引き起こす可能性があります。より注意が必要なのは、後作に栽培する作物との関係です。
マメ科作物の連作に注意
ヘアリーベッチをすき込んだ後に、ダイズ、エダマメ、インゲン、ソラマメといった他のマメ科作物を栽培すると、連作障害が発生するリスクが高まります。ヘアリーベッチによって増えたマメ科特有の病原菌が、後作の作物に影響を与える可能性があるためです。
これを避けるためには、輪作(ローテーション)の計画にヘアリーベッチを組み込むことが重要です。ヘアリーベッチの後には、イネ科(トウモロコシなど)やナス科(トマト、ナスなど)、ウリ科(キュウリ、カボチャなど)といった、科の異なる作物を栽培するのが良いでしょう。
後悔しないためのヘアリーベッチの欠点と対策
ポイント
- 繁殖力が招く雑草化の問題
- 最適な種まき方法と時期
- 後作に影響するすき込み時期
- ヘアリーベッチはいつ枯れるのか
- 水稲栽培での活用事例
- 理解して使えば怖くないヘアリーベッチの欠点まとめ
繁殖力が招く雑草化の問題
ヘアリーベッチが持つメリットの一つである「旺盛な繁殖力」は、一歩間違えると制御不能な雑草化という深刻な問題を引き起こします。
ヘアリーベッチは、こぼれ種でも容易に発芽し、一度定着すると駆除が非常に困難です。特に、管理が行き届かない耕作放棄地や河川敷などに広がると、在来の植物を駆逐し、生態系に悪影響を与える「侵略的外来種」と化す危険性があります。
このため、農林水産省ではヘアリーベッチを「適切な管理が必要な産業上重要な外来種(産業管理外来種)」に指定しており、その利用には十分な注意を払うよう呼びかけています。
雑草化を防ぐための重要ポイント
雑草化を防ぐ最も確実な方法は、種子ができる前に処理することです。ヘアリーベッチは美しい紫色の花を咲かせますが、観賞用として長く放置すると種子が成熟し、周囲に飛散してしまいます。緑肥として利用する場合は、必ず開花期、遅くとも種子が硬くなる前に刈り取り、すき込むことを徹底してください。
畑の周辺に飛散しないよう、栽培エリアを明確に区切ることも重要です。意図しない場所でヘアリーベッチが発芽しているのを見つけたら、小さいうちに抜き取るなど、早期の対応が被害の拡大を防ぎます。
最適な種まき方法と時期
ヘアリーベッチの欠点を抑え、効果を最大限に引き出すためには、適切な栽培管理が不可欠です。ここでは、基本となる種まきの方法と時期について解説します。
品種の選択
まず、目的に合わせて品種を選びます。ヘアリーベッチには、生育が早く春先の被覆が早い「早生品種」と、耐寒性に優れ、最終的な有機物量が多くなる「晩生品種」があります。利用する地域や後作のスケジュールに合わせて選びましょう。
項目 | 早生品種(ナモイなど) | 晩生品種(ウインターベッチなど) |
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主な用途 | 春まき、暖地での越冬 | 秋まき、寒冷地・積雪地帯での越冬 |
特 徴 | 初期生育が早い | 耐寒性・耐雪性に優れ、緑量が多い |
種まきの時期と量
種まきの時期は、秋まきと春まきがあります。一般的には、越冬させて春に大きく繁茂させる秋まき(9月~11月頃)が緑肥効果も高くおすすめです。
- 播種量:10アールあたり3~5kgが目安です。
- 播種方法:種をばらまきし、3~5cm程度の土を被せます(覆土)。種が土と密着するように、ローラーなどで鎮圧すると発芽率が向上します。
土壌の準備
ヘアリーベッチは幅広い土壌に適応しますが、極端な酸性土壌(pH5.5以下)や、水はけの悪い湿田では生育が悪くなります。事前に石灰などでpHを6.0~7.0に矯正し、排水対策を施しておくと良いでしょう。また、初めてヘアリーベッチを栽培する畑では、共生する根粒菌がいない場合があるため、種子に根粒菌を接種してからまくと、より確実な生育が期待できます。
後作に影響するすき込み時期
ヘアリーベッチの緑肥効果は、土にすき込むタイミングによって大きく左右されます。時期を間違えると、期待した効果が得られないばかりか、後作に悪影響を及ぼす可能性もあるため注意が必要です。
すき込みの最適なタイミングは、「開花期」です。具体的には、花が咲き始めた頃から満開になるまでの間がベストです。
開花期にすき込む理由
- 養分量が最大になる:植物体に含まれる窒素などの養分量が最も多くなります。
- 分解されやすい:茎や葉がまだ柔らかいため、土の中でスムーズに分解されます。
- 雑草化を防ぐ:前述の通り、種子が成熟する前に処理することで、翌年の雑草化を防ぎます。
逆に、すき込みが遅れて茎が硬くなると、分解に時間がかかり、土の中で窒素が一時的に微生物に取り込まれて作物が利用できなくなる「窒素飢餓」という現象を引き起こすことがあります。
すき込み後の注意点
ヘアリーベッチをすき込んだ直後は、土の中で分解が進む過程で有機酸が発生し、後作の種子の発芽や苗の活着を阻害することがあります。そのため、すき込み後、すぐに作物を植えるのは避けてください。
最低でも2週間から3週間は期間をあけて、土の中で分解が落ち着いてから次の作物の作付けを行うのが安全です。特に、ヘアリーベッチのアレロパシー成分に敏感なホウレンソウやレタスなどの葉物野菜を栽培する場合は、十分な期間を確保することが重要です。
ヘアリーベッチはいつ枯れるのか
ヘアリーベッチは一年草、または越年草です。これは、種をまいてから約1年で成長し、花を咲かせて種子をつけると、その一生を終えて自然に枯れる植物であることを意味します。
栽培サイクルによって枯れる時期は異なります。
- 秋まきの場合:秋に発芽し、冬を越し、春に急成長して5月~6月頃に開花します。その後、気温が上昇する夏(7月~8月頃)になると、自然に枯れ始めます。
- 春まきの場合:春に発芽し、夏に開花して、同じく夏から初秋にかけて枯れていきます。
枯れた後も雑草を抑制
枯れたヘアリーベッチは、そのまま地面を覆う「敷き藁」のような状態になります。この枯れた植物体がマルチング材の役割を果たし、夏の強い日差しや乾燥から土を守りつつ、夏雑草の発生を抑制し続けてくれるというメリットがあります。

ただし、前述の通り、枯れる前に種子がこぼれると翌年以降の雑草化に繋がるため、完全に放置するのではなく、計画的な管理が求められます。
水稲栽培での活用事例
ヘアリーベッチは、畑だけでなく水稲栽培においても、環境保全型の農法として注目されています。かつて水田の緑肥として主流だったレンゲが、害虫被害などで減少しつつある中、その代替作物として期待されているのです。
水稲での主な利用法
稲刈りが終わった秋の水田にヘアリーベッチの種をまき、翌年の春、田植えの2~3週間前にトラクターですき込みます。この利用法には、主に二つの大きなメリットがあります。
- 化学肥料の削減
ヘアリーベッチが固定した窒素が、稲の生育に必要な養分となります。これにより、元肥や追肥で使う化学肥料の量を大幅に減らすことができ、コスト削減と環境負荷の低減に繋がります。 - 雑草の抑制
ヘアリーベッチをすき込んだ土壌では、その分解過程で発生する物質などの影響により、水田の初期雑草(特にコナギなど)の発生が強く抑制されることが報告されています。これにより、田植え初期に使用する除草剤を削減、あるいは使わずに栽培することが可能になります。
水田で利用する際の注意点
ヘアリーベッチは、もともと畑地の植物であり、過湿に弱い性質があります。そのため、水はけの悪い水田で栽培すると、冬の間に根が傷んでうまく生育しないことがあります。水田で利用する場合は、排水溝(明渠)をしっかりと切るなどの湿害対策が成功のカギとなります。
理解して使えば怖くないヘアリーベッチの欠点まとめ
この記事では、ヘアリーベッチの様々な側面について解説してきました。最後に、その要点をリスト形式でまとめます。
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ヘアリーベッチは強力な窒素固定能力を持つマメ科の緑肥
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化学肥料の代替として土壌を肥沃にする効果が期待できる
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根が深く張り土を耕し、水はけや通気性を改善する
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アレロパシー作用と被覆効果で雑草の発生を抑制する
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一方で、繁殖力が強く管理を怠ると雑草化するリスクがある
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特に河川敷などでは在来生態系を脅かす可能性が指摘されている
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種子には家畜に対する毒性が報告されており注意が必要
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アブラムシの発生源となる可能性がある
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後作にマメ科作物を植えると連作障害のリスクがある
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栽培の際は秋まきが一般的で、品種の選択が重要
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酸性土壌や過湿を嫌うため、土壌改良や排水対策が効果的
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緑肥効果を最大化するすき込み時期は開花期
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すき込み後は後作のために2週間以上あけるのが安全
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夏になると自然に枯れ、敷き藁状になって雑草を抑える
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水稲栽培では化学肥料や除草剤を削減する技術として活用される
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メリットとデメリットを正しく理解し、計画的に利用することが最も重要